「新卒の質が低下した」は本当か?【前編】 | データで見る採用市場激変とZ世代の実像
「最近の新卒、なんだか質が落ちていないか?」
ここ最近、中小企業の経営者や管理職の方々から、こんなぼやきを聞くことが本当に増えました。有名大学を出ているはずなのに基礎学力が怪しい、大人と話すときに迫力がない、企業研究が浅すぎて志望動機がペラペラだ……。現場の上司や経営陣からは、そんな具体的で生々しいエピソードが次々と飛び出してきます。
でも、ここで一度冷静になって、立ち止まって考えてみたいのです。本当に新卒の「質」そのものが、一方的に下がったのでしょうか?それとも、私たちが長年抱いてきた「優秀な新人像」という期待値と、彼ら新卒世代(Z世代)の特性との間に、「埋められない溝」ができてしまっただけなのでしょうか。
本稿では、当社の採用・育成現場での実際の経験と、複数の信頼できるデータを照らし合わせながら、「新卒の質低下説」の正体に深く迫ります。18歳人口の激減や入試制度の変容といった動かぬ事実から、採用市場で起きている地殻変動を読み解きます。そして、中小企業の経営者が、今まさに知っておくべき「Z世代との正しい向き合い方」について、綺麗事抜きでお話しします。
【自社診断】こんなこと、思い当たりませんか?
- □ 新卒面接をしていても、昔のような「手応え」や「熱量」を感じない
- □ 有名大学出身なのに、漢字が読めなかったり、計算ができなかったりする
- □ 入社させたものの、挨拶の声が小さいなど、コミュニケーションに違和感がある
- □ 今まで通りのマネジメントをしているのに、暖簾に腕押しで響かない
- □ せっかく採用した新卒が、「思っていたのと違う」と以前より早く辞めてしまう
- □ 「なぜこの仕事をやるんですか?」「それって意味ありますか?」と理由を聞かれる
→ もし3つ以上当てはまるなら、この話は御社にとって「今すぐ」必要な処方箋になるはずです。
第1章:現場で感じる「手応えのなさ」の正体

経営陣と管理職だけが感じる「強烈な違和感」
「新卒の質が落ちた」という声。実はこれ、社内のどこから聞こえてくるかというと、圧倒的に「経営陣」と「現場のベテラン管理職」からです。特に役員面接のような最終盤や、配属後の現場で、ここ1〜2年、悲鳴に近い声が上がっています。
面白いのは、採用を担当している人事部門は、意外と冷静だということです。彼らは日々の業務で採用マーケットに触れており、競争がどれほど激化しているか、学生の母数がどれだけ減っているかを肌で感じています。そのため、「今の市場環境なら、採用できるのはこの層が限界だ」と現実的に見ているフシがあります。
対して、経営者やベテラン管理職は、10年、20年という長いスパンで若者を見ています。自分たちが若かった頃、あるいは10年前に採用したエース社員たちと比較してしまうのです。「昔の新卒はもっとガッツがあった」「言われなくても自分で考えて動いていた」「もっと地頭が良かった」——こうした過去の記憶との落差を、まざまざと感じてしまうわけです。
具体的には、「有名大卒なのにSPIの点数が驚くほど低い」「大人相手に物怖じして喋れない」「企業研究がネットの浅い情報止まりで、自分の意見がない」「とっさの判断ができず、指示待ちになる」といった話がよく挙がります。これらが積み重なって、「質が低下した」という強烈な印象を作っているようです。
見る角度を変えれば「優秀」とも言える現実
ただ、ここで視点を少し変えてみましょう。一方で「最近の子は優秀だ」「覚えが早くて助かる」という声も、実は全くないわけではありません。そう評価する人たちが何を見ているかというと、「事務処理の正確さと速さ」「PowerPoint資料の美しさ」「新しいデジタルツールの飲み込みの早さ」、そして「礼儀正しく、波風を立てないマナー」です。
つまり、泥臭い対人スキルや、正解のない問いに対する即応力を見れば「質が下がった」ように見えますが、デジタル対応や資料作成といったスマートな実務能力を見れば、むしろ彼らは先輩社員より優秀だったりします。結局のところ、「質が低下した」と感じるかどうかは、企業側が「何を重視して評価しているか」の裏返しでしかないのです。私たちは、自分たちが得意だったこと(対人折衝や根性)ができない彼らを見て「ダメだ」と烙印を押しているだけかもしれません。
「40代のエース」を無意識の基準にしていないか
ここで一つ、痛いところを突かせてください。私たちが無意識に新卒と比較している「基準」は、一体誰なのでしょうか。
おそらく、今の40代くらいのプレイングマネージャーではないでしょうか。彼らは60代の上司から昭和的な熱血指導を受け、叩き上げられ、理不尽にも耐えてきました。一方で、ネット社会の到来にも適応し、今の若手の気持ちもギリギリ理解できる。「最強の中間管理職」です。企業は新卒に対して、この「40代エースの若かりし頃」を求めてしまっている節があります。「彼らも昔はこうやって育ったんだから、今の新人もできるはずだ」と。
しかし、彼らが育った時代と今は全く別物です。バブル崩壊後の就職氷河期を生き抜いた世代のハングリー精神と、人手不足で売り手市場の現代を生きるZ世代の感覚が同じはずがありません。この比較基準そのものが、実はボタンの掛け違いの始まりなのです。
第2章:Z世代新卒が変わった3つの理由——数字で見る現実

背景1:競争人口の激減と、「推薦・AO」が当たり前の時代
まず直視しなければならないのは、単純に「若者が減った」という冷厳な事実です。過去30年(1995年→2025年)で、18歳人口は約37%も減りました。173万人から109万人へ。ピーク時の1992年(205万人)と比べると、ほぼ半減です。教室に40人いた生徒が、今は20人しかいないようなものです。
人口が減れば、当然ながら大学は定員割れを起こします。学生を集めるために大学はどうしたか。AO入試や推薦入試の枠をガバッと広げました。これが、学生の「質」に決定的な変化を生んでいます。
【データで見る入試の変貌】

文部科学省のデータを見ると、私立大学の入学者選抜は劇的に変わっています。
・2000年頃:一般入試 60% / 推薦・AO 40%
・2025年度:一般入試 37.8% / 推薦・AO 57.4%
特にAO入試(総合型選抜)は、2000年度にはわずか1.4%だったのが、2021年度には12.7%と約9倍に増えています。
昔なら、偏差値の高い大学に入るには、過酷な一般入試で学力試験を突破するしかありませんでした。その過程で、基礎学力や忍耐力、競争心が養われていました。しかし今は、私立大生の6割近くが推薦やAOで入学しています。「同じ大学名の学生」でも、基礎学力や競争経験の質が全く異なる層が混在しているのです。
経営者が感じる「学力低下」や「ガッツ不足」の正体の一部は、この構造変化にあります。かつてのような「受験戦争を勝ち抜いた精鋭」の絶対数は、物理的に減っているのです。
背景2:SNSネイティブと「対面」の喪失
二つ目の大きな要因は、彼らが「スマホとSNS」の中で育った最初の世代だということです。彼らの情報収集力は凄まじいです。就活においても、会社の評判、口コミ、業界動向、面接の質問集まで、スマホ一つで瞬時に調べ上げます。知識の量だけで言えば、かつての学生よりはるかに物知りかもしれません。
その代わり、致命的な弱点も抱えています。それは「生身の人間との、台本のない会話」です。オンラインなら準備万端で話せても、予想外の質問が飛んでくるとフリーズしてしまう。テキストでのやり取りは得意でも、電話や対面で「間」を読んだり、相手の表情を見て話題を変えたりすることが苦手です。
さらに、コロナ禍が追い打ちをかけました。高校や大学の大事な時期に、対面で人と揉まれる経験をごっそり奪われてしまった世代です。サークル活動も、飲み会も、合宿もなかった。画面越しのコミュニケーションしかしてこなかった彼らに、「空気読め」「察しろ」と言うのは、泳ぎ方を教わっていない子に「海で泳げ」と言うようなものです。
実際、高校生の半数以上が「対面コミュニケーションが取れていない」と感じており、新入社員の7割強が「コミュニケーション不足」に悩んでいるというデータもあります。「飲みニケーション」が嫌いなのではなく、単純に「生身の付き合い方」の経験値が足りていないだけかもしれません。
出典:国立青少年教育振興機構「コロナ禍を経験した高校生調査報告書」、パーソル総合研究所「新卒入社者のオンボーディング実態調査」
背景3:「叱られない」育ちと「納得感」への渇望
そして三つ目が、教育環境の変化です。ここ15〜20年で教育現場は大きく様変わりしました。「褒めて伸ばす」が主流になり、体罰はもちろん、厳しく叱責される経験さえも極端に減りました。家庭でも学校でも、個性を尊重され、大切に育てられてきました。
その結果、彼らZ世代には「理不尽アレルギー」とも言える特性があります。「昔からこうだから」「つべこべ言わずにやれ」「新人は黙って雑巾掛けだ」という昭和的な指導は、彼らには全く通用しません。それどころか、「ブラック企業だ」「パワハラだ」と捉えられてしまいます。
彼らが動くために必要なのは、「なぜそれをやる必要があるのか?」という理由と根拠、つまり「納得感」です。「この作業は、最終的にこういう形でお客様の役に立つんだよ」と説明されれば、彼らは驚くほど素直に、一生懸命働きます。
これを「甘え」と切り捨てるのは簡単ですが、データを見るともっと合理的です。SHIBUYA109 lab.の調査でも、彼らは「個人の突出」より「チームの調和」を好み、「仕事一辺倒」より「ワークライフバランス」を最優先する傾向が出ています。デロイトトーマツの調査でも、彼らは節約家でありながら、自分の満足感には投資する合理的な一面を持っています。
彼らは「我慢して働く」のではなく、「納得して、効率よく働き、自分の人生も大切にする」。非常にまっとうで合理的な価値観を持っているのです。
出典:SHIBUYA109 lab.「Z世代と上司世代の仕事観ギャップ調査」、デロイトトーマツ「2025年度国内Z世代意識・購買行動調査」
第3章:管理職の「当たり前」が通用しない

「察してくれ」は、もう無理難題
現場で起きている悲劇の多くは、管理職の「当たり前」がことごとく通じないことに起因しています。
例えば、「言わなくても察して動く」。これはもう無理難題です。Z世代は明確な指示を求めます。「あれやっておいて」ではなく、「何を、いつまでに、どのような形式で」と言われないと動けません。「報連相の徹底」も、「関係者全員に最後まで報告する」という儀式的な側面は、彼らにとって非効率の極みに映ります。「チャットで一行送れば済む話を、なぜ会議で報告するのか?」と本気で思っています。
「飲み会で仲良くなる」のも、プライベートの侵害と感じる子が増えています。かつては「とりあえずやれ」「結果が全てだ」で人は動きましたが、今は「なぜやるのか」の説明なしに動かそうとすると、彼らは心を閉ざしてしまいます。「失敗して覚えろ」という泥臭いプロセスにも耐性がなく、「失敗しないようにマニュアルをください」と言ってくるのが彼らです。
求めているのは「コミュ力」、足りないのも「コミュ力」
ここで非常に皮肉なデータがあります。経団連などの調査では、企業が新卒に求める能力の1位は、20年近く連続で断トツの「コミュニケーション能力(82.0%)」です。企業は、対人折衝能力や、空気を読んで調整する力を求めています。
一方で、新卒自身が入社後に「自分にはこれが足りない」と痛感しているのも、またコミュニケーション能力なのです。マイナビの調査では、新入社員の75.2%が能力不足を感じており、その筆頭がコミュニケーションです。
企業は「対人折衝や空気を読む力」を求め、新卒は「SNSやテキストでのやり取り」は得意でも、企業の求める「生身のコミュニケーション」とはズレがある。このミスマッチが、「新卒の質が低い」という企業側の評価と、「会社が理不尽だ」「自分はダメだ」という新卒側の不満と不安の温床になっています。
第4章:これは「質の低下」ではなく「OSの違い」である

ここまで見てきてわかるのは、「新卒の質が一方的に低下した」という見方は少々乱暴だということです。
確かに、18歳人口の減少や入試の変化といった構造的な要因で、かつてのような「地頭の良い層」や「ハングリー精神のある層」の絶対数は減っているかもしれません。しかし、それ以上に大きいのは、**「企業が求めるモデル像(昭和・平成型OS)」と「Z世代という新しいOS」のマッチング不全**です。
Windowsのパソコンに、Macのソフトを無理やりインストールしようとしても動きません。それと同じことが起きています。彼らは「デジタルネイティブ」「効率重視」「納得感重視」という新しいOSで動いています。そこに古いOS用の「根性論」や「察する文化」を押し込もうとするから、エラーが起きるのです。
中小企業の経営者が今やるべきは、嘆くことではありません。「彼らのOSは我々とは違う」と腹を括り、こちらのアプローチをアップデートすることです。彼らの「デジタルスキル」や「納得すれば動く素直さ」「倫理観の高さ」は、間違いなく次世代のビジネスにおける強力な武器になります。
【明日からできる3つのアクション】
後編では、より詳しい育成戦略をお伝えしますが、まずは今日からできることを3つ提案します。これらはコストゼロで、すぐに始められることばかりです。
1. 面接の評価シートを書き換える
「元気があるか」「地頭が良いか」「ストレス耐性はあるか」といった従来の項目だけでなく、「デジタルスキルはあるか」「納得したことを他人に説明できるか」「倫理観は高いか」という項目を足してください。減点法でアラ探しをするのではなく、彼らの新しい強みを見つける加点法の視点を入れるだけで、採用の質が変わります。
2. 説明会で「Why」を語り尽くす
「何をする会社か(What)」や「どうやるか(How)」よりも、「なぜこの仕事が社会に必要なのか(Why)」を語ってください。Z世代は意味(パーパス)に強く惹かれます。「売上がこれだけある」という自慢より、「この仕事でこんな人が助かっている」という話のほうが、彼らの心に刺さります。若手社員のリアルな声があればなお良しです。
3. 管理職に「通訳」をさせる
現場の管理職に、「あれやっといて」という指示を禁止させましょう。代わりに、「この仕事は〇〇という目的があるから、いつまでに××してほしい」と言語化するよう徹底させてください。これはZ世代のためだけでなく、組織全体の生産性向上にも繋がります。言語化能力の高い組織は、どの世代にとっても働きやすいからです。
よくある質問(FAQ)
Q1. Z世代は本当に「甘えている」だけじゃないんですか?
いいえ、甘えというより「価値観の違い」と捉えるべきです。彼らは非効率や理不尽を嫌う合理的な世代です。「なぜやるのか」という納得感さえあれば、驚くほど戦力になりますし、むしろ私たちより真面目に働くことも多いです。
Q2. 中小企業でも優秀な学生は採れますか?
大手と同じ土俵で戦わなければ、十分に勝てます。知名度や給与では勝てなくても、中小企業の武器である「社長との距離の近さ」「裁量の大きさ」「成長実感の得やすさ」は、成長と納得感を求めるZ世代と非常に相性が良いのです。そこをどうアピールするかが鍵です。
Q3. 推薦・AO組は使えないってことですか?
一概には言えません。確かにペーパーテストの学力は未知数ですが、コミュニケーション力や、特定の分野に秀でている(一芸がある)ことも多いです。学力だけで判断せず、自社が欲しい能力(例えばSNS運用力や動画編集力など)と合致すれば、即戦力になり得ます。
まとめ:変化を嘆くより、戦略を変えよう
「新卒の質が低下した」という実感には、確かな根拠がありました。人口減少、入試の変化、SNS普及、教育の変化。これらは不可逆な時代の流れです。もう、昔には戻れません。「昔は良かった」と嘆いていても、18歳人口は増えませんし、Z世代が昭和的な価値観に戻ることもありません。
しかし、悲観することはありません。デジタルに強く、意味を感じれば一直線に動けるZ世代には、彼らなりの素晴らしい強みがあります。問題なのは、私たちが古い定規で彼らを測ろうとしていること、そして昭和のやり方で管理しようとしていることの「ズレ」なのです。
中小企業こそ、この変化に柔軟に対応できるはずです。大企業のように巨大な組織を変える必要はありません。社長の一声で、明日から面接のシートを変えられるのが中小企業の強みです。後編では、Z世代の隠れた強みをどう引き出すか、具体的な育成の秘訣をさらに深く掘り下げていきます。
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